投稿

1月, 2023の投稿を表示しています

アルケミスト

 大いなるものに導かれる夢探求の物語 何も持たない羊飼いが見つける夢とその先の物語。 ”アルケミスト(パウロ・コエーリョ著)” をご存じでしょうか。 1988年に刊行された後、最初に日本語訳されたのは1994年のことでした。日本でも名著として語り継がれ、2001年には愛蔵版として画を追加したものが再出版されていました (平尾香 画/山川紘矢・山川亜希子 訳) 。 今日は愛蔵版のバージョンで紹介していきたいと思います。印象的な線と色合いで描かれた挿絵は砂の国を旅する主人公サンチャゴ・そして登場人物たちにぴったりです。 こんな人におすすめ 夢を叶えたいと思う人 人生の歩き方を見直してみたい人 自分の運命を信じてみたい人 概要           簡単なあらすじ         ”主人公の名はサンチャゴという男の子。彼は、両親が望んだように神父になるための神学校に16歳まで通っていた。しかし、小さなころから彼には夢があった。それはもっと広い世界を知りたいということ・旅をしてみたいという夢だった。 勇気を振り絞って父親に「神父になりたくない」と告げ、旅をする羊飼いになることを決めたサンチャゴ。故郷の外アンダルシアの平原を自分の足で歩き、様々な人やモノを見聞きしていく中で、ある不思議な夢を2回見るのだった。それは、自分がエジプトのピラミッドに連れていかれるというもの。 彼は、その意味を知るため、タリファにいる夢を解釈してくれる老女のもとを訪れる。そこから、彼の運命の旅が始まった…” 夢を叶えるため前兆を逃さずつかもう 心から欲しいと願うものはありますか? 人それぞれ、大なり小なり願いがあると思います。サンチャゴにとってはそれは旅をすることでした。 羊飼いとなって「旅をする」という願いが叶えられた後、彼はなんだか小さくおさまろうとします。気の合う少女とも出会い、結婚も意識することに。 しかしそんなとき、エジプトのピラミッドに導かれる夢を見るのです。 これが彼にとってのターニングポイントとなりました。 この後も、サンチャゴの旅の中では多くの 「前兆」 が登場します。 困ったとき、何気なく過ごしているとき…それはふと現れて、夢を叶える後押しをしてくれるのです。もちろん、必ずしも良い知らせだけではありません。苦しく恐ろしいことも含まれています。それでも、それが夢を叶える道しるべとなっ

雪国

 ノーベル文学賞受賞作家の文章を愉しむ 2023年になって最初の投稿は、日本を代表する古典文学作品となります。 ”雪国(川端康成 著/角川文庫)” を読み、言葉から情景や感情を想像するということを教えてもらいました。 こんな人におすすめ 川端康成作品に初挑戦するという人 海外でも人気であった日本人作家の作品に興味がある人 概要           簡単なあらすじ         ”東京の下町出身である島村は、駒子という芸者と出会い、なじみになった。今回も駒子に会うために島村は彼女のいる温泉場を再び訪ねようと雪国へと向かっていた。その汽車の中で、島村は病人の男に付き添う恋人らしき娘・葉子になぜか惹かれる。 温泉宿に滞在しながら、島村は駒子と共に過ごし心を通わせる。しかし、島村はいつかは温泉宿から東京へと帰ってしまう男であった。ずっと一緒にはいられない関係の二人と、葉子という娘。彼らのひと時の物語である…” 文章の構成           こちらの作品の冒頭はあまりにも有名ですね。 国境の長いトンネルを抜けると雪国であった。夜の底が白くなった。 これだけで、喧騒を離れて田舎へと走っている汽車の姿が浮かんできます。雪の白色に朝の白さが重なって、しんとした音の少なさも想像できてしまいました。この作品が書かれた当時の人ならなおさら強く感じたかもしれませんね。 読み進めていくと、その文章の 「清々しさ」 に気づきます。 言葉の中にいやらしさが全然ないことに気づくのです。 文章中にも、いかに駒子が ”清潔” な存在であるかがよく語られています。島村という男に好意があり、身も心も親しくなっていく。でもその駆け引きにはどろどろしたものがなくて、純粋さと正直さが伝わります。 情景がせつなく伝わる言葉の美しさ 濡れ場のない清々しいエロティシズム を愉しめるのも特徴ですね。 葉子の正体を考察する ※ネタバレ注意※ 以下、私の予想も混ぜてのネタバレを含みますのでご注意ください。 島村は駒子に会うために何度か温泉町を訪れるのですが、島村には妻子がいて、駒子にも旦那さんがいることがわかります。 二人は惹かれ合っている関係であるけれども、一緒にいるのは一時だけ。いずれは離れることになる関係です。島村は後ろ髪惹かれつつも割り切っているところがあって、東京へ帰ることは揺らぎません。でも駒子は違います。