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7月, 2022の投稿を表示しています

死ぬより老いるのが心配だ

 著者の今までとこれからを想うエッセイ ESSAYS AFTER EIGHTY~80歳を過ぎた著者が語る彼の人生についてのお話です。 ”死ぬより老いるのが心配だ(ドナルド・ホール著/田村義進訳/辰巳出版)” というタイトルでは、心配事ばかり語られているのかと思うかもしれませんが、内容はいたって明るいもの。 詩を書くことを仕事としてきた彼の紡ぐ言葉の中に、人生との向き合い方のヒントが見つかると思います。 こんな人におすすめ 死生観について考えている人 老いることについて不安がある人 散文の詩が好きな人 概要           今回は、エッセイの中から私が素敵だなと感じた言葉を引用していきたいと思います。 イチオシの言葉たち P18 老人は永遠に他者だということだ。 若い人たちは、年上を敬い、おおむね大切に扱おうとします。でもその言葉の中に、 老人を上から見下ろしているような心が見え隠れする。蔑んでいるということではないのに、できる者ができない者の世話をするときに生まれる上下関係のようなものがそこにはあります。 著者はそれを悲しく思っているわけではありません。 自分が老いたということを忘れていて、ふとそれに気付かされるということ。「ああ、そういえば、自分も年を取ったんだ。」と。 こんなふうに素直に受け取りたいと自分も思いましたね。世話をする側もされる側もとても穏やかでいられるのではないでしょうか。 P30 矛盾は生命体の細胞が本来的に備えているものだ。 詩人として、何度も推敲を重ねる。何十回も書いて、ふとドンピシャを思いつく。 そんな執筆活動をしていたという著者。うまくいったりいかなかったりする。たくさんの矛盾に囲まれている。 そのことが苦しくなるときもあると思いますが、それが生命体であると思えば少し気が楽です。 P48 だが、この世にハッピーエンドというものはない。幸せだと思うのは、幸せが終わっていないからだ。 終わるときハッピーであることはおそらくないでしょう。 自分も、周囲の人も、きっと悲しいです。それは覚悟が必要だなと思いました。 それと同時に、幸せだ、と思うことをいつも大事にしていたいと思わせてくれます。楽しいこと、嬉しいこと、感動したことを忘れない。自分が幸せであるよう人生を自分でつくる。 いつでも、今できること・今手にあるものを丁寧に見つめていたいですね

無(最高の状態)

 苦しみの正体を科学的に解き無我の境地へ辿り着こう 今日ご紹介するのは、 ブッダ的思考×科学的根拠 で幸せに生きようとする1冊。 様々な本でブッダ的思考、禅思考、儒教などが取り上げられますが、こちらの ”無~最高の状態(鈴木祐著/クロスメディア・パブリッシング)” は宗教的側面や主観的な世界 に偏りすぎず、歴史・科学的側面からわかりやすくまとめられていると思いました。 こんな人におすすめ 人生苦しいことが多くてなんとか解決したい人 自己鍛錬の仕方を知りたい人 概要           文章の構成 易しめの文章で、読みやすいでしょう。取り入れられる進化・脳の機能のお話も難しすぎず、理解しやすいと思います。 人間はデフォルトで ネガティビティバイアス (都合の悪いこと・悲しいこと・負のインパクトがある出来事に反応しやすい性質)がある、というお話に始まり、その背景やそもそも自分たちの苦しみはどうやって生まれているのかを探っていきます。 次に、 脳が作り出すトラブル に焦点を当て、その解決方法・修行の仕方まで紹介してくれています。筋肉を鍛えるように、心や思考の力も鍛えることができるというのは、嬉しい発見ですね。 ヒトの進化~大脳皮質の進化 嫌なことほど忘れない、という機能は、原始のホモ・サピエンスにとっての有利な生存戦略でした。 嫌な気持ち(怒り・嫉妬・恐怖・不安・悲しみ・恥…)ほど何度も 「反芻」 し、忘れないことで次の失敗をなくそうとする。 この仕組みにより、集団で暮らすようになった祖先は日々の安全を手に入れることができました。 しかし、新たな問題として グループ生活の中での争い・裏切り などにぶち当たることになるのです。 他者とうまくコミュニケーションをとること、自分が裏切られないかどうか・どう見られているかを予測する力が必要になり、大脳皮質を進化させるに至った…と考えられています。 それが「自己の形成」につながり、生存に必要なツールになっていきました。 脳が作り出す虚像 自分のニーズが満たされないとき、私たちは苦しさを感じます。 「自分」にこだわり、もっと良くなりたい・もっと手に入れたい・もっと…と悩む。 富裕国の若者ほど苦しんでいると言われていますが、選択肢がありお金がある分、求めるニーズが多いので、孤独・鬱・不安も生じやすいのでしょう。 目の前の出来事は何ら変化

シェイクスピア古典を読んでみる

 不思議な魅力を持つ古典文学 今日はシェイクスピアの作品をいくつか紹介していこうと思います。 最も有名なロミオとジュリエット、ハムレット、オセロー、リア王、マクベスではない作品たち。私のアメリカ人のお友達が好きだと言っていたもので、私も日本語訳でですが読んでみました。 ラストがどこにおさまるのかまったく予想がつかない。そんな面白さがあります。また、昔の人たちが考えていること、感じることが奇想天外・奇妙で、私たちとはひと味違う 価値観を持って生きていたことを教えてくれます。 こんな人におすすめ! 古典文学に興味がある人 シェイクスピアの作品を読んでみたい人 古典を読みたいけど手始めにどれがいいか迷っている人 シェイクスピアはどんな人? 本名:ウィリアム・シェイクスピアWilliam Shakespeare 年代:1564-1616 イングランドの劇作家・詩人であり、 イギリス・ルネサンス演劇を代表する人物 と言われ、 最も優れた英文学の作家 とも呼ばれている人物です。 残した作品は近代英語の貴重な資料となっており、英語がどのように生まれて形を変えてきたかを知るうえでも偉大な遺産を残してくれています。シェイクスピア自身に関する資料が少ないので、存在していなかったんじゃないかと言う研究者もいるようですけどね。 作品をいくつか紹介!    ここではおもしろ作品を3つご紹介。簡単なあらすじを載せますね。 1.夏の夜の夢ーA Midnight Summer Night's Dreamー 『ライサンダーとハーミアという、愛し合った二人がおりました。 しかしハーミアに恋するディミートリアスは、諦めきれずにいました。さらに、そんなディミートリアスに想いを寄せるヘレナという女性もいて、関係は複雑でした。 一方、妖精のオーベロンは、妻である妖精の女王ティターニアとケンカをしていました。美しい「とりかえ子」をめぐり、取り合いをしていたのです。従者であるパック(ロビン)に命じて恋する薬をティターニアの目に塗らせ、別の者に恋をさせているうちにその子どもを奪おうと画策します。 しかし従者パックはティターニアだけでなくライサンダーの目にも薬をかけてしまいました。4人の人間たちの関係性はぐちゃぐちゃになり、ヘレナの取り合いが始まるのです。事態はおかしな方向へと進み始めます…』 ローマ神話に由

The Song of Achilles

 トロイ戦争を題材にした神々と人間たちのお話 神話をモチーフにした物語は数々存在していますが、こちらの ”The Song of Achilles(Madeline Miller/ECCO PR)" は印象深いです。 ラストにかけて、とにかく最高すぎます…トロイ戦争がどういうものだったか、ギリシャ神話の神々のことに関していくらかでも知識があると、より楽しめるでしょう。 こんな人におすすめ ギリシャ神話が好きな人 壮大なスケールの戦争物語が好みな人 せつない愛の物語が好きな人 概要           文章の構成           全編英語です。チャプターも30を超えますので、時間をかけてじっくり楽しみましょう。 英語の難易度はやや高め。ギリシャ神話の神々たちの名前は固有名詞なので、読みにくいものばかりなのも難点。もちろんフィクション要素もありますが、ギリシャ神話の登場人物たちのこと、トロイ戦争のことの予備知識があると少し楽だと思います。 アキレスとパトロクロスという2人の少年たちが成長し、惹かれ合い、戦争に身を投じていく姿を丁寧に追っていきます。 語り部はパトロクロス。 ”運命・宿命”のままに生きねばならない苦しさ 若いからこそ完成されていない心の揺れ動き が魅力です。 あらすじ           パトロクロスとアキレスと出会い ある家に生まれたパトロクロスが罪を犯し、流された先で出会うアキレスという人。アキレスは神であるテティスと人間の王の間に生まれた半神でした。神秘的な雰囲気があり、誰からも好かれ、でもどこか何かが不足しているように感じさせる不思議な存在。 初めは二人は良き友人。お互いを許し合える存在でした。 それが尊敬する師・カイロンと出会い、より近い場所で共に生活し、自然と体を重ねて愛をささやき合う関係へと発展するのです。 このシーンは本当に胸がどきどき…友情が恋になって愛になる。それが言葉で染み込んでくるような感覚があります。 師との別れから一変した生活 師のもとで暮らしていた時は穏やかでした。だんだんと少年が青年になり、心に愛が育って、身体的にも子どもから大人へと変化していく日々。 それを認めようとしないアキレスの母テティスは、突如アキレスを別の女と結婚させ、子どもを作らせるのです。 そして、戦への徴兵。そこで 死ぬことが唯一の名声で運命で