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NASAより宇宙に近い町工場

 どの言葉も漏らさず読みたい1冊 「どうせ無理…」 その言葉をなくしたい。夢を持つってどういうこと? それを教えてくれる1冊が ”NASAより宇宙に近い町工場(植松努著/ディスカヴァー・トゥエンティワン)” です。 民間企業でありながら宇宙開発に貢献している会社。 いったいどうやってそこに至ったのか?見ていきましょう。 こんな人におすすめ 宇宙研究に興味がある人 夢を持ち続けてがんばりたい人 概要           文章の構成           植松さんの優しい語り口で進みます。 彼の生み出す言葉はなぜかすべて聴きたい。そんな気持ちにさせてくれます。 おそらく、彼が本当に実践したことで、考えたことだから響くのかなと思いますね。さらに、TEDなどで人に話す・説明する経験をされている方なので、どの話も非常に面白く感じられるのかもしれません。 植松努さんの仕事       植松さんの会社は、リサイクルで使われる特殊なマグネットの開発により資金を得て、宇宙開発に投資しています。 もともとは、「ロケットを飛ばしたい」という夢を叶えようとしていた植松さん。銀行はそんな夢物語にはお金を貸してくれず、自分で生命保険に入ってお金を借りたのだそうです。 そこから、自分たちでニッチな稼ぎどころを発掘。そこでこだわりのマグネットを開発しました。 現在の大量生産・大量消費時代は終わろうとしている。 モノを作ってたくさん売りたいから、壊れやすいものばかり作っている世間の会社たち。そんな波に負けず、壊れない・よりよいモノをつくるという信条を持っている植松さんは、周囲の人も惹きつけます。 現在では、世界に三か所しかない無重力施設の1つを、植松さんの会社で持っています。 お金をかけず、自腹でやっている実験施設。その利用にもお金がほとんどかからないため、世界中の色々な研究者たちが実験をしにやってきてくれるのだそうです。そこで、お金ではなく、 経験 知恵 人脈 を得ている。そのつながりが財産なのです。 ゼロからイチを生み出す     従業員に個性は必要なく、マニュアル通りにやってくれればそれでいい。 それが大量生産・大量消費の時代でした。昭和の戦後復興ではそれでよかった。でも今はもうその時代は過ぎ去った過去です。 現在必要とされているのは、アイディアだけで国を成り立たせるような、やったことのないよう

鳥類学者だからって、鳥が好きだと思うなよ。

 結局、鳥好きな研究者のお話 今日は ”鳥類学者だからって、鳥が好きだと思うなよ。(川上和人著/新潮社)” という本のご紹介です。 タイトルがなかなか奇抜。また、表紙のポップさも合わさってなんだか読む前から楽しい気分にさせてくれます。 こんな人におすすめ 鳥類学者に興味がある人 ニッチな学問の研究者の過ごし方を知りたい人 概要           文章の構成           著者である川上さんの「正直で毒舌」な話し言葉で書かれています。 鳥類学者のフィールドである小笠原諸島を主な舞台とし、どんな研究をしているか、どんなところを見ているのか、何のために研究しているのかが紹介されています。 章ごとにかわいらしい鳥の挿絵も登場。しかしもうちょっと島や鳥の写真・絵があってもよかったな…という印象はありました。言葉だけでの説明が多いので、イメージしづらい人もいるかもしれません。 自分の研究には命をかける価値はない ばっさりと言っていますが、 P6 実利の小さい学問の存在理由は、人類の知的好奇心である。 と語り、「知りたい」「理解したい」という単純な欲求でずっと鳥類学者を続けてきた川上さん。 研究者にもいろいろあるし、子どものころから興味があったわけではないのだそう。 ただ、その研究コースに所属することになって、謎を解明することが仕事になったようですね。実に正直。あまり言いたくないような失敗・研究秘話も多く登場します。 高尚な理由を持って研究に励んでいる人もいますし、たまたまその職業になった人もいる。それでも鳥を研究し、 生物相を解明する という目標に向かって進んでいます。 美しいだけの自然なんてない    無人島にて調査活動を行うこともある鳥類学者。 そこでは、外来生物を絶対に持ち込まないよう綿密に準備を重ね、原生状態の生態系を壊さぬように細心の配慮をしています。出発の1週間前から種子のある果実を食べることを禁止されるということを初めて知りました。 たしかに、たった1つでも持ち込んでしまえば、その種が瞬く間に広がり、別の生物を生かしたり殺したりできてしまう。 ヒトが介入することで、”自然”は容易に変化してしまう ことを教えてくれます。 また、 P58 原生の自然が美しいなんていうのは、都会派の妄想に過ぎない。 と言い、現実には死体にまみれ、ハエにあふれ、呼吸をするのだって

人生の短さについて

 人間の弱さに配慮した現実的な哲学 今回は、古代の哲学者 ルキウス・アンナエウス・セネカ が書いたとされる3つの手紙をまとめた本を紹介したいと思います。 ”人生の短さについて 他2編(セネカ著/中澤務訳/光文社)” では、セネカの妻の親族(おそらく義理父)に向けたもの、母ヘルウィアへの手紙、そして年下の親友セレヌスへ向けたアドバイスの3つを収録しています。 セネカは日本でも人気の哲学者で、賢者になりきれない人間の弱さに配慮した、より現実的に実践できることを語っていました。 こんな人におすすめ 人生の時間の使い方を考えたい人 苦境の中でのマインドを学びたい人 概要           セネカとは           古代ローマの哲学者セネカは、アウグストゥスの優れた政治の後、続く皇帝たちによってダメになっていく統治の中で政治の世界に飛び込んだ人物。 途中、8年間の流刑に処せられてコルシカ島に追放されたときもありました。 最終的には、皇帝ネロの教育係として勤めたあと、自殺に追い込まれてしまう悲しい最期でした。 しかし、彼が残した言葉は現代を生きる私たちにも通じるものが盛りだくさんです。 こちらの本では、 「時間の使い方」「悲しみの慰め方」「若い時の仕事への向き合い方」 を主に語ってくれています。 パウリヌスさんへ ~多忙な生活は人生を短くする おそらくセネカの妻の親族だとされるのがパウリヌスです。彼は非常に多忙な食糧管理官で、それを心配したセネカは「多忙では人生を短くする」と言い、この手紙を贈ったとされています。 P15 だれもが、ほかのだれかのために、使いつぶされているのだ。 自分の金銭を他人に分け与えることはないのに、自分の人生は分け与えてしまう。それって時間の無駄遣いじゃないのか?50歳を過ぎたら引退しよう…ってそこまで生きている保証はある?生きることをやめなければならないときに生きることを始めるなんて、遅すぎるじゃないか… 古代の人々も、忙しい毎日を送っていたのでしょうね。身分が低い人も、ある程度の役職について仕事をしている人も。 時間は、放っておいたらすぐに過ぎてしまうから、 理性を使って時間を長くするのだ と教えてくれています。 酒や性におぼれることも、多忙すぎることも、本当の意味で”生きる”ということから遠ざかっているのだと。 P28 ある人の髪の毛が白い

LOVE & SDGs 車いすでもあきらめない世界をつくる

 本の構成までバリアフリーな気がする1冊 大学4年生・22歳の時に遠位型ミオパチーと診断された織田友里子さん。それ以来、日々動かなくなっていく体と向き合い、日本・そして世界にバリアフリーを広めようと活動を続けてきました。 そんな彼女のこれまでの道のりと、福祉に対する思いをまとめた1冊。 ”LOVE & SDGs 車いすでもあきらめない世界をつくる(織田友里子著/鳳書院)” を紹介していきます。 こんな人におすすめ バリアフリーに興味のある方 車いす生活について知りたい方 SDGsに興味のある方 概要           本の構成           1冊の本そのものがまさにバリアフリーという感じです。 織田さんが病気になり様々な活動を始めるまでの歩み。これをまとめた漫画からこの本は始まります。 そしてデンマーク留学の経験、現在取り組んでいることの紹介、日本の大臣との対談、織田さんの思いを綴った章、そしてSDGsとしての活動…と、非常に多くのトピックが盛り込まれているのに、全然飽きのこない文章になっていました。 字が大きめで読みやすく、丁寧な言葉遣いと写真豊富なつくり。誰にでも読みやすく、理解しやすい内容になっています。 織田友里子さんの歩み      漫画の中では、まだ難病指定すらされていなかった遠位型ミオパチーになるまでの織田さんの姿が描かれています。いきなり訪れた病気。しかも治ることがないと告げられた悲しみ・恐怖…経験したことのない人にとっては理解しえないものかもしれませんが、漫画になっていることで、当時の状況がよくわかると思います。 周囲の人に支えられ、辛い毎日の中にも光を見出してきた織田さん。 彼女の活動は非常に多岐にわたります。 デンマーク留学:車椅子の状態になってから留学。福祉政策の最先端を学ぶ。 PADM発足:遠位型ミオパチーの患者会。 WheeLog!開発:バリアフリー情報提供をみんなで行う情報共有アプリ。 Googleインパクトチャレンジでグランプリをとり開発へとこぎつける。 車椅子ユーチューバー:登録者1.39万人(2022.8月現在)。 SDGs:世界各地のサミットへの参加。プレゼンターとしての登壇。 もはや日本を飛び出して、世界中にバリアフリーの必要性を訴える大使のような活動をしていらっしゃいます。文部科学大臣賞を受賞したり、万博に参

だから私はここにいる 世界を変えた女性たちのスピーチ

 強くあろうとする女性たちの言葉 人類の長い歴史の中で、女性たちは常に”差別”にさらされて生きてきました。 それでも、抑圧されながら強い使命感と意志を持って闘い続けていた女性たちが確かにいたのです。 50人以上の世界の女性たちの言葉を集めたこちらの本。 ”だから私はここにいる 世界を変えた女性たちのスピーチ(アンナ・ラッセル著/カミラ・ピニェイロ絵/堀越英美訳/フィルムアート社)”※英名:SO HERE I AM Speeches by great women to empower and inspire を今日はご紹介します。 こんな人におすすめ 歴史を変えてきた女性たちを知りたい方 女性の力強いメッセージで勇気をもらいたい方 概要           構成             文章は、まずピックアップされた女性の簡単な略歴や歴史背景の説明から始まります。そして実際のスピーチの内容を掲載。50人以上の女性たちを紹介しています。 魅力的なのは、 多くの女性たちの人生や考え方を一気に知ることができる ところ。非常に簡潔にまとめながらも、その時代の困難や共通する苦しみを知ることができます。自分たちの時代とも照らし合わせて、彼女たちの人生を追体験できると思います。 また、 挿絵が非常に素敵 。 絵はカミラ・ピニェイロさんというブラジルのイラストレーターさんが担当してくださっているのですが、 カラフルで、インパクトがあって、非常に楽しくなる絵です。 女性たちの美しく力強い姿が表現されているように感じます。 難点があるとすれば、デザインが秀逸な分、字が少々小さいことでしょうか。電子版はあまりおすすめではないですね。紙の書籍で読むほうが、目にも易しく、実際のイラストの色彩も楽しめて良いと思いました。 好きだなと思ったスピーチ   個人的に印象深かった女性たちは以下の方々です。 エリザベス・キャディ・スタントン フンミラヨ・ランサム=クティ インディラ・ガンディー セヴァン・カリス=スズキ ナオミ・ウルフ マララ・ユスフザイ シェリル・サンドバーグ エマ・ワトソン マヤ・リン いずれの活動家の方々も、女性解放運動、LGBTQ問題、黒人差別問題などに対してスピーチをしています。女性解放運動家、ジャーナリスト、作家、政治活動家、裁判所判事など、立場や時代が違っていても、女性たちが

2022年本屋大賞ノミネート作:赤と青のエスキース

 伏線回収大満足・1枚の絵に関わる人々の愛と旅 今日は久々の小説のご紹介です。 2022年の本屋大賞ノミネート作品にもなっている、 ”赤と青のエスキース(青山美智子著/PHP研究所)” です。 ここではざっとしたあらすじのご紹介と、素敵だなと思えた言葉の紹介をしていきたいと思います。 あらすじ         まず目次を載せておきます。 1.金魚とカワセミ 2.東京タワーとアーツ・センター 3.トマトジュースとバタフライピー 4.赤鬼と青鬼 エピローグ 各章タイトルを見るといったいなんのこと…?と思うかもしれませんが、すべてに共通しているのは、 「赤」 と 「青」 をあらわしていることですね。物語のキーになってきます。 また、オムニバス形式になっているのですが、1つ1つの物語は最後に1つにつながっていきます。そのつながり方が秀逸です。 1.金魚とカワセミ 日本からメルボルンに来た留学生であるレイは、地元の男性ブーと出会い、付き合うようになります。ただそれは、レイが日本に帰るまでの「期間限定」という約束。レイの目線から、臆病な恋物語が語られます…。 始まりは非常に甘酸っぱい恋です。ブーに心惹かれていくレイの気持ちがせつなくて、臆病だけど優しい2人の気持ちが胸を打ちます。 レイは卑屈なところもありますが、ちゃんと考えられる人。間違っても、気づくことができる人なのが非常に魅力的です。 2.東京タワーとアーツ・センター 空知。30歳。額縁の店で働く男性です。彼は職人である村崎と二人だけの工房で働くようになって8年経ちました。最初に就職を決めたときは、心に決めた夢があった。だけど最近はどこか諦めの気持ちもある。そんなタイミングで、円城寺さんと立花さんという2人が画廊から数枚の絵を持ち込み、オーダーメイドかつおまかせで額縁を作ってほしいと注文をしました…。 空知は大学卒業の際に、どこに就職するかを非常に迷っていました。なぜ彼が小さな工房を選んだのか?そのきっかけに注目してください。 3.トマトジュースとバタフライピー タカシマ剣。売れた漫画家。彼は40歳をとうに過ぎていた。そんな彼のアシスタントをしていた砂川凌。26歳。ウルトラ・マンガ大賞を受賞し、今や時の人となっている砂川は、かつての師匠であるタカシマとある喫茶店で対談をすることになります…。 弟子である砂川は天才肌で、タカ