自転しながら公転する

「自分のことが書いてある」と多くの女性に思わせる小説

今日ご紹介する小説は、”自転しながら公転する(山本文緒 著/新潮文庫)”です。

こちらの作品は、名だたる賞を受賞し、本屋大賞にもノミネートされた作品で、現代の30代女性が持つ葛藤を描いています。

主人公である都の心のうちをぶちまける言葉たちは非常に多くの女性の心に刺さると思います。自分自身、ぐいぐいと心をえぐられて涙すら出てくるほどでした。「なんて自分勝手な女なんだ都…!」と思うのに、それは自分の心のうちにも確かにある感情で、それを認めざるを得ない苦しさや情けなさみたいなものに気づかされます。


今日はこちらの本のおおまかなあらすじと、主人公の人物像について紹介していこうと思います。


こんな人におすすめ

  • 女性のみなさま!
  • 恋愛小説がお好きな方


概要          

おおまかなあらすじ      

都の母親が更年期障害になった。東京のアパレルで働いていた都は、母の手助けを父から頼まれ、地元に戻ってくることを決める。田舎のモールにあるアパレルショップで働きながら、母の病院送迎や手伝いをする日々の中、都はたまたま入った寿司屋で店員の貫一と出会い、あれよあれよという間にお付き合いすることになる。

母はいつ元気になるんだろうか?自分はいつまで実家で生活するのだろうか?仕事は正社員になれるようにがんばったほうがいい?セクハラはどうしたらいい?自分はいつ・誰と結婚するの?

人生で直面するであろう悩みの渦に沈み、彼女が見つけた答えはいったい…?



徹底的にリアルな30代女性の日常  

30代はとにかく悩みが複雑に・そして重くなります。

・恋愛→結婚しなくちゃいけない?

・子どもは持つ?

・仕事・キャリアをどうする?

・親の介護はどうする?

すべてをうまくやろうと思ったら、もう身動きが取れなくなるくらいの課題でしょうね。

仕事がようやく面白くなってきたと感じるころ、まだ結婚していない人には既婚者の一挙手一投足がマウントのように感じられる瞬間があります。特に女性は子どもを持つかどうかといった問題も出てきます。

また、自分が本当に望んでいることが何なのか?まだ答えが出ていないことに区切りをつけることを否応なしに求められる年代でもある中、親の介護という逃げられない役目ものしかかるのです。そりゃ辛いはず。



貫一を値踏みする嫌な女    

そんな鬱屈した日々の中、都には貫一という存在が支えになり始めます。仕事や家での嫌なものを忘れさせてくれる、逃げ場になっていくのです。


しかし、都は貫一を値踏みし続けるんですね。

・彼と付き合っていて先はあるのか?

・どうやら学歴が中卒らしい

・ヤンキーっぽい

・収入はどうなるの?

・でも優しい

打算的で、わかったふりして優柔不断で、人に嫌われないように生き、嫌なものから逃げ続ける姿をこれでもかと見せられるうちに、彼女に対して非常に嫌な感情が沸き起こります。


しかし、どこか自分自身にも共通するところがあるんです。それが不思議で、ちょっと悔しいんですよね。

貫一の意外な他人への貢献を聞き、

P182 感動したというより、動揺した。

なんて言う都が、なんとも身勝手なやつで、そして自分も都と同じかもしれない、と思わせます。

どこか貫一を下に見ていたのに、そんな人が実は自分なんかよりすごく善い人間であったなんて、認めたくないような気持ちになる。確かに優しい人だ。でも未来がない…と決めつける。それでも、一人で老いていく恐怖に耐えられないから結婚しよう。

自分中心で身勝手な彼女に共感してしまうのです。



母親・桃枝や友人・そよかなどの女性たち 

母親から見る娘についてや、都がうらやましく思う友人たちの気持ちが随所に登場します。色々な立場の人の、それぞれの事情や、考えていたことが明らかになっていき、誰の事も否定できないなという気持ちになるんです。

誰が悪いとかじゃない。それが非常にリアルで、人の営みがいかに単純ではないかを再確認させられました。


都の周りの女性たちは、それぞれに強さを持った女性たちなのです。



都が見つける答え       

終盤は、都の積もり積もった不安がスパークして溢れます。ぜひ読んでみていただきたいのですが、ぐるぐると頭の中だけで巡っていたものが実際に言語化されたとき、かなりのインパクトを持って心に刺さるなと思いました。思わず涙…。


一つひとつ、わからないながらも積み上げてきた貫一との関係にも、ついに大きな変化が訪れます。

貫一と都がいったいどんな結末になったのか?見届けてください。



感想          

30代って、十分に大人であることを求められるんですが、そうはいかなそうです。

考えることが増えて、できることが増えて、でもまだまだ何かを成すには遠い。それが30代なのだろうと思っています。

都の身勝手さは、どの年代の人にも心当たりがあるのではないでしょうか。焦り、不安、妬み、悔しさがあり、時に死にたいような気持ちにさせ、またある時は原動力となってくれる。

そうやって誰もが感情に振り回されながら生きているのでしょう。


この本を読んで、自分自身の振る舞いが自分本位になっていないか?を考えるきっかけとなりました。文句ばっかりではいけないですよね。どこかできっと腹をくくる時がくる。その時に備えて、精神を磨いていきたいなと思います。そして、最後はきっとハッピーエンドだと信じて人生を歩いていきたいと思います。



まとめ         

  • 30代女性のリアルな悩みに向き合おう
  • 臆病な人間が見つける幸せの着地点をみてみよう

500ページ超えの長編小説。じっくり時間をかけて読んでみてください。

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