ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー
イギリスで暮らす母と息子の成長物語
こちらの本はノンフィクション。イギリスのブライトンという街で暮らす父・母・息子3人家族のお話です。
”ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー(ブレイディみかこ著/新潮社)”というタイトルを見ると、一見小説か、さらっとしたエッセイを思い浮かべますが、内容は非常に考えさせられる「差別と貧困」がテーマになっています。
レイシズムだらけ・多様性にあふれた中学校への進学を選んだ息子が、そこで人とのかかわりを学び、たくましく育っていく様子を眺めていきましょう。
こんな人におすすめ
- イギリスの学校事情を知りたい人
- 差別や貧困問題について考えてみたい人
- 子どもの教育に役立てたい人
概要
文章の構成
母親からの目線で、イギリス・ブライトンの中学校へ進学した息子の様子が書かれています。
筆者の言葉遣いは非常に巧みです。心に刺さるメッセージがたくさん登場します。母親だけでなく、その息子もまた現状を非常にうまく言語化しているので、フィクションを疑ってしまうくらいです。
筆者が中学生の学校生活と関わっていく中で気づいたのは、
毎日の中に当たり前に差別・貧困がある
ということ。現状のイギリス情勢を交えて書かれているのですが、中学校を舞台にしているからか、非常にわかりやすく納得しやすいと思います。
多様性の中で生きていかねばならない息子を母はありのままに見て、時に対話し、時に静かに見守る。とても素敵な家族の記録です。
息子自身が選んだ進学先
息子が通う公立中学校には、とにかく様々なバックグラウンドを持った子どもたちが通っています。黒人も、白人も、貧乏も、信じる宗教の違う人も。
息子は小学校はカトリックの学校に通っていました。別にそのままエスカレーター式に私立中学校に進学してもよかったはず。しかし息子は、学校見学をした後にそのブライトンの公立中学校への進学を決めます。
混ざっているその世界は、楽しそうな雰囲気に包まれていた。
大変そうだけど、面白そうに見えたのですね。
いざ飛び込んでみると、親としてはハラハラするような出来事も少なからず起こります。しかし息子はその1つ1つに向き合い、丁寧に対話をし、友だちと向き合っていくのです。
エンパシーを理解する
エンパシーとは、自分で他人の靴を履いてみること=他人の立場に立つこと。
自分とは違う理念や信念を持つ人、また別にかわいそうだとは思えない立場の人々が、いったい何を考えているのだろうと想像する力。この知的作業を、きっちりと学校で教えるんですね。
日本でも「その人の立場になって気持ちを考えてみろ」とは教えられますが、学校の必修科目になっているわけではなく、一般常識のようなくくりにありますよね。
ブライトンの中学校は、
- レイシズム教育
- シティズンシップ教育
- 性教育
- ポリティカル・コレクトネス教育
などの授業を通して、決めつけない考え方を教えています。
小さい時から周囲にいる人たちのこと・国のこと・コミュニティのことをありのままに正直に伝えていこうとしているのですね。
いろいろあって当たり前。そう学んだ息子は、親が心配するよりもずっと朗らかに育っている。世界はひどい方向に向かっていると言う人たちがいるけれど、彼らをみくびってはいけない、と筆者は語っています。
人間は罰するのが好きなんだ
この言葉は、息子が母に語ったものです。
息子と仲良くしている友だちに、決して裕福ではない男の子がいた。その子をめぐっていじめは起きました。
そのいじめはまさに社会の縮図のようなもので、差別と貧困、人の弱さがそこにあります。助けようと思っても、いじめられている側は施しを受けることを恥ずかしく思うかもしれない。施しを与える側も、どんな言葉・理由をつけるかは難しい。友達だから、ではうまくいかないこともあるかもしれない。
何通りも道はあって、どれが正解かはわからないけれど、真摯にぶつかっていこうとする息子の姿はたのもしく思えます。ぜひ読んでもらいたいエピソードです。
感想
「そんな表現あったのか…!」
ハッとさせられるメッセージがたくさんちりばめられているこちらの本。感動しながら読み進めました。
差別と貧困という重たいテーマではありましたが、それを身近に感じさせてくれる飾らない文章が素敵です。
改めて、教育の大切さを感じましたね。綺麗事ばかり並べるのでなく、今までの自分たちの課題をすべて見せて、子どもを1人の人間として見て向き合っていく。それがよりよい未来につながっていると思わせてくれました。
親が子に伝える、学校の先生が生徒に伝える、どの形でもこの気持ちを大切にしていきたいですね。
まとめ
- いろいろあって当たり前
- 決めつけない教育をしていこう
- 子どもとの関わりかたを見直そう
多様性を認め合おうとする試みは、人間の歴史では始まったばかりのようなもの。まだまだ課題は多いと思うので、試行錯誤を重ねていきましょう。
続編もありますので、そちらも要チェックです。
コメント
コメントを投稿