無(最高の状態)

 苦しみの正体を科学的に解き無我の境地へ辿り着こう

今日ご紹介するのは、ブッダ的思考×科学的根拠で幸せに生きようとする1冊。

様々な本でブッダ的思考、禅思考、儒教などが取り上げられますが、こちらの”無~最高の状態(鈴木祐著/クロスメディア・パブリッシング)”は宗教的側面や主観的な世界に偏りすぎず、歴史・科学的側面からわかりやすくまとめられていると思いました。


こんな人におすすめ

  • 人生苦しいことが多くてなんとか解決したい人
  • 自己鍛錬の仕方を知りたい人



概要          

文章の構成

易しめの文章で、読みやすいでしょう。取り入れられる進化・脳の機能のお話も難しすぎず、理解しやすいと思います。


人間はデフォルトでネガティビティバイアス(都合の悪いこと・悲しいこと・負のインパクトがある出来事に反応しやすい性質)がある、というお話に始まり、その背景やそもそも自分たちの苦しみはどうやって生まれているのかを探っていきます。

次に、脳が作り出すトラブルに焦点を当て、その解決方法・修行の仕方まで紹介してくれています。筋肉を鍛えるように、心や思考の力も鍛えることができるというのは、嬉しい発見ですね。



ヒトの進化~大脳皮質の進化

嫌なことほど忘れない、という機能は、原始のホモ・サピエンスにとっての有利な生存戦略でした。

嫌な気持ち(怒り・嫉妬・恐怖・不安・悲しみ・恥…)ほど何度も「反芻」し、忘れないことで次の失敗をなくそうとする。この仕組みにより、集団で暮らすようになった祖先は日々の安全を手に入れることができました。

しかし、新たな問題として

グループ生活の中での争い・裏切り

などにぶち当たることになるのです。


他者とうまくコミュニケーションをとること、自分が裏切られないかどうか・どう見られているかを予測する力が必要になり、大脳皮質を進化させるに至った…と考えられています。

それが「自己の形成」につながり、生存に必要なツールになっていきました。



脳が作り出す虚像

自分のニーズが満たされないとき、私たちは苦しさを感じます。「自分」にこだわり、もっと良くなりたい・もっと手に入れたい・もっと…と悩む。

富裕国の若者ほど苦しんでいると言われていますが、選択肢がありお金がある分、求めるニーズが多いので、孤独・鬱・不安も生じやすいのでしょう。


目の前の出来事は何ら変化していないのに、同じトラブルでも苦しむ人と苦しまない人がいます。それは

P62 私たちは脳が作り出したシミュレーション世界を生きている

からだと著者は語ります。

<脳>

1.物語を無数に作り、データを視床に送信。

2.実際にやってみて、外界からの情報と照合し、作った物語に間違いがないかどうかをチェックする。

3.作った物語通りならそのまま処理。予想外だったらまた新しく物語を作り直す。

このように私たちの脳は昼夜がんばって考えています。


決して現実をありのままに体験しているわけじゃない。


この事実は、けっこうショックかもしれません。


さらに厄介なことに、生存を守るためのこのシミュレート機能には


過去に経験したこと・データとの照合でゆがんだ価値観を生むことがある


という困った作用があります。


ストーリーは今までに経験したこと・出会ったことと照合するしかなく、物語は独自のもの。常に自分が主人公の物語ですから、自己が絶対であるかのような錯覚に陥らせる…私たちはありのままに生きているわけでなく、自分・周囲の物語によって変わる世界に生きているということを知っておかねばなりません。



セットとセッティングで自分を鍛える

常に自分のつくり出す虚像と向き合う必要がある私たち。

仕方ない、と諦めるのではなく、この本では苦しみを認め向き合い、反芻しないためのトレーニングを紹介してくれています。


1.感情の粒度を上げる(曖昧な感情を詳しい言葉で表現できるスキルを身につけると、脳の感情処理が上手くなり、ストレスに強くなる。)

2.内受容感覚トレーニング(呼吸に注目し、臓器感覚を感知する能力を高める。)

3.避難所を作る(快適な安心できる場所を作る。)


不快にならないものから少しずつ始めることをおすすめされています。

P222 人間の精神とは、さまざまな自己・感情・思考がどこからともなく現れては消える「場」のような存在です。

自分の精神はゆらぎのようなもの。なんだか量子のようです。



無我の境地とは何か

無我の境地に辿り着いた人の状態は

  • 人生経験から得た知識を正しく利用できる
  • 困難に直面しても不安が少ないまま行動できる
  • 自分や他人の精神状態を注意深く考察できる

であるとこの本では表現されています。


生じた苦しみを無駄に反芻することなく、今を生きるための考え方。すべての人に共通する絶対の解決方法はないとしても、参考になるものが見つかる1冊です。



感想          

自分たちが世界をありのままに見ることはできない。

これは非常に悲しいというか、美しいと思ったり、楽しいと思ったりする感情すらも事実ではないような気持ちにさせられますね。


ただ、だからこそ謙虚になれる、ということでもあると思います。

さまざまな著書で「自分を疑うこと」は大切だとされてきました。私たちは、遺伝的な発現ですら、生まれてから経験したもの・感じたことがトリガーになる。常に誰かの物語の影響を受け、自分をつくっていく。


世界は常にすべてが変化し、私たちも泡沫(うたかた)の存在なのだから、余計な何かに苦しむ必要はないのかもしれません。もっと、楽になっていい。

些末な存在であることは悲しいことではなくて、自由である、ということの裏返しだと思います。何を健全とするかは時代により変わりますが、自由な気持ち・謙虚さを育むことで、幸福感が満ちるのではないでしょうか。



まとめ         

  • 脳には困ったストーリーテリング機能がある
  • 苦しみを反芻するのを止めてみる
  • 無我の境地は考え方次第で手に入る


他人を理解しようとすることや、初心者の気持ちを忘れずにいることの大切さにも気づくことができる1冊になっていると思います。

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