The Song of Achilles

 トロイ戦争を題材にした神々と人間たちのお話

神話をモチーフにした物語は数々存在していますが、こちらの”The Song of Achilles(Madeline Miller/ECCO PR)"は印象深いです。

ラストにかけて、とにかく最高すぎます…トロイ戦争がどういうものだったか、ギリシャ神話の神々のことに関していくらかでも知識があると、より楽しめるでしょう。


こんな人におすすめ

  • ギリシャ神話が好きな人
  • 壮大なスケールの戦争物語が好みな人
  • せつない愛の物語が好きな人



概要          

文章の構成          

全編英語です。チャプターも30を超えますので、時間をかけてじっくり楽しみましょう。

英語の難易度はやや高め。ギリシャ神話の神々たちの名前は固有名詞なので、読みにくいものばかりなのも難点。もちろんフィクション要素もありますが、ギリシャ神話の登場人物たちのこと、トロイ戦争のことの予備知識があると少し楽だと思います。


アキレスとパトロクロスという2人の少年たちが成長し、惹かれ合い、戦争に身を投じていく姿を丁寧に追っていきます。

語り部はパトロクロス。

  • ”運命・宿命”のままに生きねばならない苦しさ
  • 若いからこそ完成されていない心の揺れ動き

が魅力です。



あらすじ          

パトロクロスとアキレスと出会い

ある家に生まれたパトロクロスが罪を犯し、流された先で出会うアキレスという人。アキレスは神であるテティスと人間の王の間に生まれた半神でした。神秘的な雰囲気があり、誰からも好かれ、でもどこか何かが不足しているように感じさせる不思議な存在。

初めは二人は良き友人。お互いを許し合える存在でした。

それが尊敬する師・カイロンと出会い、より近い場所で共に生活し、自然と体を重ねて愛をささやき合う関係へと発展するのです。


このシーンは本当に胸がどきどき…友情が恋になって愛になる。それが言葉で染み込んでくるような感覚があります。



師との別れから一変した生活

師のもとで暮らしていた時は穏やかでした。だんだんと少年が青年になり、心に愛が育って、身体的にも子どもから大人へと変化していく日々。


それを認めようとしないアキレスの母テティスは、突如アキレスを別の女と結婚させ、子どもを作らせるのです。


そして、戦への徴兵。そこで

死ぬことが唯一の名声で運命である

と知ってしまったアキレスは、トロイへと赴くことになります。


アキレスを決して一人にはせず、そばにいたいと願うパトロクロスの気持ち…胸が締め付けられること間違いないです。



トロイでの10年

戦争は長期化し、兵士はどんどん疲弊していきました。

アキレスは死ぬことが目標なので、恐れません。仲間たちも、アキレスについていくことで気持ちを保ち、最後まで戦い抜こうとしていました。


しかしここで共に戦うメンバーの一人、アガメムノンとの対立が始まります。疫病の蔓延、アキレスが唯一大切にしている”誇り”を奪う行為…これによりアキレスは戦争そっちのけでアガメムノンを殺したくなってしまう。戦争に出陣することを放棄し、籠城を始めたのです。


長い戦争は、やはりアキレスも含む全員の心を蝕んでいたのだと言えるでしょう。ここで初めてパトロクロスはアキレスに対して黒い感情を抱くことになります。記憶に残るように散りたいと願うアキレスは、まさに自己顕示欲・プライドの塊。多くの人の命をゆだねられていると言っても過言ではない彼自身が、自分の名誉のために戦いを放棄しようとする。パトロクロスの説得により、少しずつアキレスは心を取り戻していきますが、参戦するに至りません。アガメムノンが死ぬのが条件だと言うのです。



本格化する戦・そして…

いよいよ戦いが本格化します。ここで、アキレスは

It's the beginning!

と叫ぶ。…パトロクロスは、何かが壊れた、と思った…


この10年、仲間たちはアキレスが敵将を討ち取るのをずっと待ってきました。しかし、アキレスは出てこようとしない。それでも、最後までパトロクロスはアキレスのそばにいて、説得を続けます。


果たして、彼らはどんな結末を迎えるのか?ここからのお話は実に胸が熱くなる展開で、せつなさMAXです。



見どころ!         

なんといっても、パトロクロスの成長が素晴らしいです。

最初はアキレスという存在に助けられていたはずのパトロクロス。しかし、アキレスに学び、彼を愛し、師に学び、常に心優しく、正直で、献身的である…その賢明な姿は心を打ちます。


一方で、どんどんダメになっていくアキレスもまた見どころ。

死に向けて歩まねばならない苦悩が常にあったのは間違いありません。しかし、いつしか自分の事ばかり考えるようになっていくアキレス。それは彼に神の血が流れているからか?それとも人間の血が流れているからか?パトロクロスの近くにあったはずの心が離れていく様は、非常にせつなく、そして目が離せないシーンでもあります。


そしてアキレスの母テティス

彼女もまた被害者のようなものです。物語の中ではアキレスとパトロクロスを認めようとしない姑のようなポジションにありますが。

息子が父よりも偉大となるだろうというお告げを受けていたテティス。それを恐れたゼウスが、力を制限させるために人間とテティスを結婚させたと言われています。


彼女は彼女なりに、自分の息子の価値を証明しようとしていたのかもしれません。



感想          

パトロクロスの言葉が非常に印象的でしたね。

カイロンの言葉を思い出す。戦いの悲しさを。誰かの友・兄弟かもしれない相手を殺すのか?と。14歳の時に聞いたが、27歳になってもまだ難しく思う。


いくら多くを学んでも、答えの出せないことはたくさんあるのです。ずっと出ないのかもしれない。でも選択しなければならない。全部は守れないのだから…それは私たちも同じだなと思えます。


また、登場人物たちからは、心の弱さ、苦悩だけでなく、生きる覚悟や誠実さも感じ取ることができ、多くの感情に出会うことができる物語になっていると思いました。



まとめ         

  • 戦争がもたらすものについて考えよう
  • 少年たちの愛の行方に注目


戦争の段階に入ると、かなり心が苦しい展開が続きます。しかし、ぜひ最後まで見届けてみてください。せつなさだけでなく、少しの安堵と感動も待っていると思います。

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