2022年本屋大賞ノミネート作:赤と青のエスキース

 伏線回収大満足・1枚の絵に関わる人々の愛と旅

今日は久々の小説のご紹介です。

2022年の本屋大賞ノミネート作品にもなっている、”赤と青のエスキース(青山美智子著/PHP研究所)”です。

ここではざっとしたあらすじのご紹介と、素敵だなと思えた言葉の紹介をしていきたいと思います。



あらすじ        

まず目次を載せておきます。


1.金魚とカワセミ

2.東京タワーとアーツ・センター

3.トマトジュースとバタフライピー

4.赤鬼と青鬼

エピローグ


各章タイトルを見るといったいなんのこと…?と思うかもしれませんが、すべてに共通しているのは、「赤」「青」をあらわしていることですね。物語のキーになってきます。

また、オムニバス形式になっているのですが、1つ1つの物語は最後に1つにつながっていきます。そのつながり方が秀逸です。



1.金魚とカワセミ

日本からメルボルンに来た留学生であるレイは、地元の男性ブーと出会い、付き合うようになります。ただそれは、レイが日本に帰るまでの「期間限定」という約束。レイの目線から、臆病な恋物語が語られます…。


始まりは非常に甘酸っぱい恋です。ブーに心惹かれていくレイの気持ちがせつなくて、臆病だけど優しい2人の気持ちが胸を打ちます。

レイは卑屈なところもありますが、ちゃんと考えられる人。間違っても、気づくことができる人なのが非常に魅力的です。



2.東京タワーとアーツ・センター

空知。30歳。額縁の店で働く男性です。彼は職人である村崎と二人だけの工房で働くようになって8年経ちました。最初に就職を決めたときは、心に決めた夢があった。だけど最近はどこか諦めの気持ちもある。そんなタイミングで、円城寺さんと立花さんという2人が画廊から数枚の絵を持ち込み、オーダーメイドかつおまかせで額縁を作ってほしいと注文をしました…。


空知は大学卒業の際に、どこに就職するかを非常に迷っていました。なぜ彼が小さな工房を選んだのか?そのきっかけに注目してください。



3.トマトジュースとバタフライピー

タカシマ剣。売れた漫画家。彼は40歳をとうに過ぎていた。そんな彼のアシスタントをしていた砂川凌。26歳。ウルトラ・マンガ大賞を受賞し、今や時の人となっている砂川は、かつての師匠であるタカシマとある喫茶店で対談をすることになります…。


弟子である砂川は天才肌で、タカシマに見いだされて漫画家人生が始まりました。そんな弟子が今やテレビに引っ張りだこの存在です。タカシマにとっては、嬉しいようで悔しいようなそんな存在である砂川。

彼らはある喫茶店で対談・取材を受けることになるのですが、はたしてどうなるか?



4.赤鬼と青鬼

50歳のある女性が雑貨屋リリアルで働き始めました。順調に成果を出し、イギリスに仕入れに行ってみるか?と店長からお誘いをもらった彼女。二つ返事で行くことを決めたものの、パスポートを別れたあの人の家に置いてきてしまったことに気が付きました。しぶしぶ連絡を取ることになるのです…。


ここまで様々な対比が描かれてきましたが、ラストは別れた2人です。

なんで別れたんだっけ…?過去の事、これからの事を考えながら、女性はパスポートを取りに向かいます。彼女がやりたかったことがいったい何か?それに気づいて見つけた彼女の答えは、心温まるものでした。



エピローグ

ラストはこのオムニバスがどんなふうにつながってきたか?の種明かしです。ここまでくれば、エスキースがどのように物語を繋げてきたのかがわかることでしょう。もう一度戻って読み返したくなるかもしれませんね。



素敵な言葉集      

第1章金魚とカワセミでは、印象深い言葉がたくさん登場します。この本の大事な登場人物であるレイとブーの二人の心を表現するのに、とても時間を割いたのではないでしょうか。


P6 どこが最終地点なのかわからないまま、変わりながら、だけど変わらないで、ただ続けること。

恋人関係のことを表現したこちらの言葉。


まさに!と思える的確な表現だと思いました。変わっていきたくないけれど、変わっていく関係。それでもお互いを想いあえるよう続けること。結果的に着地点がどうなっているかはわからないけれど、大事にする気持ちだけは持ち続けたいものだなーと思わせてくれます。



P20 ここを竜宮城だと思ってるんだ、みんな。

ブーが、レイに対して言った言葉です。


留学生が一時的に現実を忘れてやってくる夢のようなオーストラリア。真新しい体験や人との出会いは刺激的で、とても楽しい。でもそれが終わりのあるもので、続いていくような感じがしない。「価値観が変わった」「いい経験ができた」で終わってしまう過去のようなものに思える。留学することがただ箔をつけるためのものにすぎないような気がして、ちょっとせつない気持ちになりました。

これはあくまで私の感想なので、物語とは少々ずれる解釈でしょう。


ブーはオーストラリアで育った人ですが、背景は少々複雑。ネタバレなしではあまり多くを語れませんが、ブーがなぜこの言葉を使ったのか?は「赤と青のエスキース」を読めばばっちりわかることでしょう。



P33 でもね、描いているうちに、自分でも予想できないことが起きるんだ。

物語に登場する画家、ジャック・ジャクソンの言葉です。


エスキースは、本番の絵を描く前に描く下絵のようなもの。はじまる前のもの。そこでは偶然生まれるものがあり、完璧じゃなくても美しいものが生まれることがある。頭の中だけで終わらせず、自分で実際に描き出したときに見えてくるものがあるのだから、あらゆることに興味を持つこと・やってみることって大切ですね。



感想         

最初は登場人物の名前もいまいちわからず、どうつながっていくのかもわからないのですが、最終的に非常にきれいな終着点へとたどり着きます。

個人的には、むしろきれいすぎるくらいに感じました。無駄なく伏線が回収され尽くしますからね。


的確な心理表現がちりばめられていますが、あまり複雑な表現はありません。しつこさもなく、簡潔に言い切るような言葉遣いだなと思いました。


レイとブーの恋は非常にせつなくて、なんとも歯がゆいです。お互いの思いやりと未熟さが痛いほどわかり、その心は時間を経ても消えません。少女漫画好きでもかなり楽しめるだろうと思いました。


本屋大賞に2年連続ノミネートとなった青山美智子さんの作品。謎解きしながら読み進めてほしいと思います。

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