人生の短さについて
人間の弱さに配慮した現実的な哲学
今回は、古代の哲学者ルキウス・アンナエウス・セネカが書いたとされる3つの手紙をまとめた本を紹介したいと思います。
”人生の短さについて 他2編(セネカ著/中澤務訳/光文社)”では、セネカの妻の親族(おそらく義理父)に向けたもの、母ヘルウィアへの手紙、そして年下の親友セレヌスへ向けたアドバイスの3つを収録しています。
セネカは日本でも人気の哲学者で、賢者になりきれない人間の弱さに配慮した、より現実的に実践できることを語っていました。
こんな人におすすめ
- 人生の時間の使い方を考えたい人
- 苦境の中でのマインドを学びたい人
概要
セネカとは
古代ローマの哲学者セネカは、アウグストゥスの優れた政治の後、続く皇帝たちによってダメになっていく統治の中で政治の世界に飛び込んだ人物。
途中、8年間の流刑に処せられてコルシカ島に追放されたときもありました。
最終的には、皇帝ネロの教育係として勤めたあと、自殺に追い込まれてしまう悲しい最期でした。
しかし、彼が残した言葉は現代を生きる私たちにも通じるものが盛りだくさんです。
こちらの本では、「時間の使い方」「悲しみの慰め方」「若い時の仕事への向き合い方」を主に語ってくれています。
パウリヌスさんへ ~多忙な生活は人生を短くする
おそらくセネカの妻の親族だとされるのがパウリヌスです。彼は非常に多忙な食糧管理官で、それを心配したセネカは「多忙では人生を短くする」と言い、この手紙を贈ったとされています。
P15 だれもが、ほかのだれかのために、使いつぶされているのだ。
自分の金銭を他人に分け与えることはないのに、自分の人生は分け与えてしまう。それって時間の無駄遣いじゃないのか?50歳を過ぎたら引退しよう…ってそこまで生きている保証はある?生きることをやめなければならないときに生きることを始めるなんて、遅すぎるじゃないか…
古代の人々も、忙しい毎日を送っていたのでしょうね。身分が低い人も、ある程度の役職について仕事をしている人も。
時間は、放っておいたらすぐに過ぎてしまうから、
理性を使って時間を長くするのだ
と教えてくれています。
酒や性におぼれることも、多忙すぎることも、本当の意味で”生きる”ということから遠ざかっているのだと。
P28 ある人の髪の毛が白いとか、顔に皺が寄っているからといって、その人が長く生きてきたと認める理由にはならない。その人は、長く生きていたのではない。たんに長く存在していただけなのだ。
…かなりグサッとくる文章です。
”閑暇を持て”
これがセネカの主張なのですが、この閑暇が難しい。
手に入れた暇を、結局無意味に仕事をしてつぶすのでなく、お気に入りに時間をかけるのでもなく、より格好よくなろうと時間を使うでもなく、誰かに世話をしてもらうわけでもない…
- 自分が本来すべきこと、自分のためになることをしている時間
- 英知を手にするために使う時間
- 生きることと死ぬことを知る時間
もっと深くて静寂のある時間を持ってほしい、とセネカはパウリヌスに訴えています。
母ヘルウィアへ ~悲しみの慰め方
コルシカ島という流刑地に追放されてしまったセネカ。嘆き悲しむ母に向けて、自分は不幸じゃないということ、悲しみの原因は母自身の中にあるということを告げました。
P76 万人が望むようなものの中に、ほんとうのよいものがあると思ったことはありません。
追放とは住む場所が変わることにすぎず、徳があれば耐えることができる。セネカはそう語りました。賢者に従い、運命に頼ることもない自分は、なにも辛い目には合わないのだと。
人間はもともと居場所を変える衝動を持っているし、天体だって止まることなく巡り、そしてふたたび同じ軌道に戻ってくる。
追放の地にだって人間を養えるくらいの土地はあるし、今までの母の苦労を考えたらこれくらいの傷はどうということはないのだとセネカは言います。
親友セレヌスへ ~心が乱されるときはこうする
セレヌスは質素な生活と学問をこよなく愛している人物でした。ただ、時々不安に駆られて自分を見失いそうになることがあったようです。そんな若き人物に向けて、すでに追放を赦されてローマに戻っていたセネカが手紙を送ります。
P156 われわれに降りかかる災難は、多種多様で、不公平なものであり、すべてをはねつけることは不可能だ。
周囲にあふれているものに惑わされることはある。だから、困ったら自分の仕事(自分の閑暇)に集中すること・自分を信頼することをアドバイスしています。
不完全で、凡庸なんだと思うなら、自分で上限を決めたっていい。高みにいる人は断崖に立っているのだから、別にうらやましく思わなくていい。
無駄に自分を苦しめることはせず、もっと自分に率直に生きていいのだと教えてくれているのです。なんだか心が安らぐメッセージですよね。
感想
哲学者の本って堅苦しいイメージがあるかもしれませんが、書いてあることは実は自分たちの生活に密接だったりします。
こちらの本のように、古代の人のメッセージを現代日本語訳してくださっているおかげで、かなり読みやすく読むこともできるんですよね。非常にありがたいです。
この記事で紹介している以外にも、「なるほどたしかに!」と思わせてくれる言葉がたくさんありました。
個人的には、セネカが
たくさんの女性たちの立派な行為が、世に知られないままになっている
と語ってくれていることが素晴らしいなと思っています。
女性は差別されてきたと言われているけれど、考えてくれる人、英知のある人は、差別なんてしていなかったんじゃないか。知識があって、考える力があったら、そんなことはできないんじゃないか。
世界中に学びの大切さやその意義が広まっていってほしいなと思いました。
まとめ
- 多忙は人生を短くする
- 閑暇の時間を大切にしよう
- 人間の弱さも英知で対抗できる
セネカは質素な生活を大切にしていたようで、必要なものだけ満たそうと考えるシンプルな生き方を推奨しています。
現代のミニマリスト・持たない生き方にも通じる人だったのでしょう。共感できる方がたくさんいらっしゃると思います。
コメント
コメントを投稿