鳥類学者だからって、鳥が好きだと思うなよ。
結局、鳥好きな研究者のお話
今日は”鳥類学者だからって、鳥が好きだと思うなよ。(川上和人著/新潮社)”という本のご紹介です。
タイトルがなかなか奇抜。また、表紙のポップさも合わさってなんだか読む前から楽しい気分にさせてくれます。
こんな人におすすめ
- 鳥類学者に興味がある人
- ニッチな学問の研究者の過ごし方を知りたい人
概要
文章の構成
著者である川上さんの「正直で毒舌」な話し言葉で書かれています。
鳥類学者のフィールドである小笠原諸島を主な舞台とし、どんな研究をしているか、どんなところを見ているのか、何のために研究しているのかが紹介されています。
章ごとにかわいらしい鳥の挿絵も登場。しかしもうちょっと島や鳥の写真・絵があってもよかったな…という印象はありました。言葉だけでの説明が多いので、イメージしづらい人もいるかもしれません。
自分の研究には命をかける価値はない
ばっさりと言っていますが、
P6 実利の小さい学問の存在理由は、人類の知的好奇心である。
と語り、「知りたい」「理解したい」という単純な欲求でずっと鳥類学者を続けてきた川上さん。
研究者にもいろいろあるし、子どものころから興味があったわけではないのだそう。
ただ、その研究コースに所属することになって、謎を解明することが仕事になったようですね。実に正直。あまり言いたくないような失敗・研究秘話も多く登場します。
高尚な理由を持って研究に励んでいる人もいますし、たまたまその職業になった人もいる。それでも鳥を研究し、
生物相を解明する
という目標に向かって進んでいます。
美しいだけの自然なんてない
無人島にて調査活動を行うこともある鳥類学者。
そこでは、外来生物を絶対に持ち込まないよう綿密に準備を重ね、原生状態の生態系を壊さぬように細心の配慮をしています。出発の1週間前から種子のある果実を食べることを禁止されるということを初めて知りました。
たしかに、たった1つでも持ち込んでしまえば、その種が瞬く間に広がり、別の生物を生かしたり殺したりできてしまう。ヒトが介入することで、”自然”は容易に変化してしまうことを教えてくれます。
また、
P58 原生の自然が美しいなんていうのは、都会派の妄想に過ぎない。
と言い、現実には死体にまみれ、ハエにあふれ、呼吸をするのだってやめたくなるような世界が広がっているのだと言います。
毒があるから美しい。
その中で、標本を得るために命を捕殺し、業を背負い、自然界に埋もれた真理を探している。…なんか、かっこいい響きがあります。
わずか25万年の歴史しかない人類よりも、何億年もかけてトライアル&エラーを繰り返してきた動物・植物たちは知の宝庫。それらの進化の歴史を、ヒトの手が及んでいない無人島の生物たちから解き明かそうとしているのですから、本当に研究が好きなんだなという気がします。
鳥が好き、というよりも、謎解きが好きで、入口が鳥類学者だったということなのかもしれません。
ネズミの話
個人的には、東島のミズナギドリを襲ったネズミの繁殖が印象的でした。
その島にネズミが持ち込まれて以降、大繁殖してしまったことでミズナギドリは消えてしまった。だから、殺鼠剤でネズミの根絶に挑む。
しかし、ネズミを食糧としていたノスリという鳥が今度は食糧不足に陥る…
最終的には、ノスリはもともとミズナギドリを食糧にしていたので、その生活に戻るだろうから絶滅するまでではない…というお話なんですが、
自然が連鎖している
ことを強く感じました。1つ変わったら、それに関わるものが芋づる式に変化を迫られる。私たちが地球で生きる限り、繋がっているのですね。
感想
鳥類に興味があったわけではなく、タイトルと表紙に惹かれて読み始めてしまったのですが。結果、また1つ知らない世界のことを知れて良かったですね。
自然の中にいると、昼の喧騒が夜の喧騒に移り変わり、別の音を奏で始めるそうなんですが、なんだかとても神秘的に思いました。
鳥類学者の研究の様子を面白おかしく知ることができる1冊なのですが、進化のことや、生物の分布のことを考えるのに良い題材になると思います。
まとめ
- 研究者にだって色々ある
- 小さな学問の中で奮闘している研究者がいる
- 自然に埋もれた真理を見つけよう
今までに知られていなかったことを発見した時の感動や、逆に先を越されて悔しかった気持ちなど、研究に携わる者の見ている世界をのぞくことができます。
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