読書について

もっと言葉を大切にしようというメッセージ

今日は古典のご紹介で、読書が好きだという人にこそ読んでみてほしい1冊です。

”読書について(アルトゥル・ショーペンハウアー著/鈴木芳子訳/光文社)”では、

  • 自分の頭で考えるということ
  • 読書をする際の心得
  • 文章を正しく書くことの大切さ

を教えてくれています。終始、ドイツ人の文章への向き合い方を壮大にディスっているような、正直すぎる言葉たち。現代の私たちの心にもぐっさりと刺さることでしょう。


こんな人におすすめ

  • 読書する意味を考えたい人
  • 自分が本好きであることに自信がある人



概要          

文章の構成          

ショーペンハウアーさんはドイツ人の哲学者。

彼はドイツ国民の文章への向き合い方・読書への向き合い方に疑問を呈し、彼なりの考え方を披露してくれています。言葉遣いがかなり”正直”なので、強い意志・憤り・熱意が感じられます。


章は大きく3つに分かれています。

①自分の頭で考える

②著述と文体について

③読書について

最後は訳者の方の解説が入っています。

過去の偉人たちの歴史背景や、ざっくりとした著者の主張をまとめてくれているので、解説から読むのも良いでしょう。



自分の頭で考える:真理と洞察を自分で手に入れる

こちらの章では、「もっと自分自身で考えろ!」ということを切々と語ります。

P6 どんなにたくさんあっても整理されていない蔵書より、ほどよい冊数で、きちんと整理されている蔵書のほうが、ずっと役に立つ。同じことが知識についてもいえる。いかに大量にかき集めても、自分の頭で考えずに鵜吞みにした知識より、量はずっと少なくとも、じっくり考え抜いた知識のほうが、はるかに価値がある。


手に入れた知識をどうやって使うのか?

数多ある知識を自分のものにする。それがやりたくて本を手に取り、読み込んでいるはずなのに、いつの間にかただのコレクターに成り下がっている…

そんなことが昔のドイツにもあったんですね。そして、現代でも同じようなことをやっている気がする。

悩んだら本を読め!

という昨今、確かに本はたくさんの選択肢を見せてくれますが、あまりにその選択肢も多くなりました。ショーペンハウアーさんの生きていた時代よりももっと多くの知識・解釈であふれているのですから、それを選択する能力・自分で考え自分のものにする能力を高めることは必須と言えるでしょう。


P13 いつでも座って本を読むことはできるが、考えるとなると、そうはいかない。つまり思索は人間のようなものだ。

考えることって、簡単ではありません。

とにかく答えのないことを悩み、何らかの解答を出さねばならない。保留し続けることもできますが、そのままでは悩む苦しみも終わりません。


自分で考え抜いて真を見つめることにこそ価値があるのだと著者は語ります。



著述と文体について:ほとんどの本は悪書

P24 どんな作家でも、かせぐために書きはじめたとたん、質が下がる。

学問の世界では、自分の説・自分の存在を認めさせたいという気持ちが働く、と著者は語っています。それは稼ぐための文章であり、目立ちたいだけの本で、最新だからといって手を出すべきではない、というのです。

世に出回るほとんどの本を”悪書”だと言い、書かなければよかったのにと思うほどだ…と強く主張しています。これは主にこの時代のドイツについて語っているのですが、なんだか現代のことを言われているようで、ドキッとしてしまいます。

形容詞は名詞の敵だ(ヴォルテール)

という言葉があるくらい、余計な言葉で能力の低さを隠そうとする傾向は、今も昔もあったのですね。


P28 できれば原著者、そのテーマの創設者・発見者の書いたものを読みなさい。

学問的な本では、引用・参考文献が多数あるはずです。

まずは始まりを理解すること。この大切さは、確かに理解できます。


P74 ドイツ語はギリシア語やラテン語に劣らない、みごとな文章を書くことのできる比類なき言葉だ。

著者はドイツという国を大切に想っている。だからこそ、半端な使われ方には我慢がならないのでしょう。言葉、話し方や論じ方、文法の使い方など、事細かな指摘が綴られています。



読書について:読書は所詮他人に考えてもらうこと

ショーペンハウアーさんは、

読書=自分でものを考えることをせずに他人に代わりに考えてもらうこと

だと断言しています。ただ、決して読書を否定しているわけではありません。

冒頭の通り、自分で考え、知識を自分のものにするところまでやってこそ、価値があると言っているのです。


P99 消化してはじめて栄養になるのと同じように、本を読んでも、自分の血となり肉となることができるのは、反芻し、じっくり考えたことだけ

本来、読書はとてもエネルギーのいる作業なんですよね。書物を通して、自分たちの精神を培っている。だからこそ、重要な本は何度も読むものだし、そういう良書に時間を割くためには、1年で流行が過ぎるような大衆本は避けたほうがいい。


ついつい、今年のイチオシ!みたいな広告につられて本を手に取ってしまいますが、それでは自分で選択したのではなく、選ばされた本になってしまいます。

そして、本の何たるか、読書の何たるか、自分の何たるかをわかったような気になっている。


そんな人間を真っ向から酷評するショーペンハウアーさんの言葉は、きっと多くの人の心に響くのではないでしょうか。



感想          

冒頭からグサッと刺さり、最後まで一気に読むこととなりました。

素敵な本棚に囲まれた暮らしがしてみたいと思っていたけれど、一気に冷めてしまった感覚です。見栄を張るのはやめようと思います。


私は社会人になって読書をするようになり、人生が変わりました。だからこそ本を読むことは自分の好きなことで、多くの本を読むことで自分の知らないことを知っていきたい・世界を広げたいと考えるようになりました。

だけど、知るだけじゃダメなんだ、ということを最近忘れていたと気づかされました。


もともと、「自分で考えること」が苦手であるという自覚があったので、より衝撃を受けましたね。いつの間にか、読書をすることが目的になり、本を読んでいれば他の読んでいない人よりも偉い人になった気分で、なんだか頑張っている気がして、気分が良かっただけなのかもしれない。


改めて、読書との向き合い方を見直すきっかけを与えてもらいました。こちらの本には感謝しています。



まとめ         

  • 自分でじっくり考え、向き合い、答えを出す。
  • そのためのお助けアイテムに本を読む。
  • 正しい母国語を心がける。

非常にシンプルな1冊でした。光文社さんの古典シリーズは非常に読みやすく、解説もあって嬉しい本です。


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