はてしない物語(上)
現実と本の世界とがリンクする長編小説
児童図書作家の作品ということで、軽く読めそうだなと思って手を出したのが運の尽き。大人でも面白く引き込まれてしまう作品で、時間をかけて読んでおりました。
”はてしない物語 上(ミヒャエル・エンデ作/上田真而子・佐藤真理子訳/岩波書店)”は300ページを超えますので、じっくりと楽しんでください。
こんな人におすすめ
- ファンタジーが好きな方
- 冒険物語が好きな方
概要
おおまかなあらすじ
「学校にも家にも居場所がないと感じている主人公バスチアンは、あるとき学校をさぼって本屋さんへとたどり着いた。
偏屈な主人が読んでいる本がどうしても欲しくなり、バスチアンは主人が席を外した際に本を盗み出してしまう。
彼は一人でその本を読み始めるのだが、そこには『ファンタージエン国』という世界で起きている危機と、それに立ち向かうアトレーユという少年の冒険が描かれていた。かの国では、『虚無』と呼ばれる何もない空間が世界を覆っていき、じわじわと削られていく渦中にあった…」
主な登場人物は以下の通りです。
- バスチアン(本を読み進める主人公)
- アトレーユ(バスチアンの読む本の中の主人公)
- フッフール(幸運をもたらす幸いの竜)
- 幼ごころの君(ファンタージエン国の女王)
バスチアンを通して見えてくる人の弱さ
最初から泥棒になっている主人公…なかなかない出だしではありますが、学校生活に打ちのめされ、父との関係に悩むバスチアンに共感する人もいるでしょう。悪いことだとわかっていて、もう後に引けないと思っていながら、目の前の本を読みたいという欲望に勝てないさまは、なんだか他人事とは思えない心理状態であると言えます。
ごくありきたりの人たちの、ごくありきたりの一生の、ごくありきたりの事がらが、不平たらたら書いてあるような本は、きらいだった。
というバスチアン。
確かに、ファンタジーな物語は非現実であるからこその感動やドキドキ感がたまりませんね。でもごくありきたりの中にある感謝や幸せに目を向けることができていない彼の精神状況は非常に残念です。
それを作り出してしまっている家族や周囲の状況、彼自身の自己肯定感の低さの問題にも目が向き、まるで自分のことを言われているかのような気持ちになる人もいるかもしれません。
物語の中のアトレーユは非常に勇敢です。それが自分にもあったらいいのにと焦がれる気持ち、自分だったら助けてやれるのにと思う「部外者」であるからこその自信。いざ舞台に上がるとなったときの怖気づく気持ち。
すべて、一度は感じたことがあることでしょう。
アトレーユの旅に風刺的エッセンス
どこに向かっていけばいいのかもわからない旅の中で、アトレーユは「求め、たずねることのみ。」という答えのなさすぎる無理ゲーをクリアしようとしていきます。
誰一人、助けてくれる人はいない旅の中で、出会う生き物たちは少しずつヒントを与えてくれる。
なんだか、人生そのものを表してくれているかのようですね。
生き物たちの与えてくれるヒントは、絶望的なものも多数ありますし、風刺的なエッセンスを感じさせます。
物語の中に登場する「虚無」はかなり重要なキーになります。なぜそれが広がっていくことになったのか?注目して読んでみてください。
また、バスチアンの世界と、アトレーユのいるファンタージエン国の世界がどのようにリンクするのか?気づいたときにはもはや最後まで一気に読み進めることになるでしょう。
感想
児童図書とのことだったのですが、物語の深みに驚きました。
弱さのある人間をみると、ついつい自分と重ねて感情移入してしまいますね。そして、それを打破してほしいと願って熱中してしまう。非常に楽しませてもらいました。バスチアン、アトレーユ、フッフール、エルフェンバイン塔などなど…英語圏ではない、名前の響きも新鮮です。
物語の中には、カイロンが登場。各種神話が好きな私としては、非常に納得感がありました。カイロンは「師匠」のような、「アドバイザー」のような立場で登場するキャラクターなので、ズレがないのが個人的には嬉しいポイントでした(かなりマニアックです…)。
ミヒャエル・エンデの作品に興味が湧き、別作品も一気読み。そちらもおもしろかったので、後日ブログにアップしますね。
まとめ
- 冒険ファンタジーを楽しめる小説
- 子どもも大人も楽しめる内容
- 長編なのでじっくりと時間を取って読もう
下巻もありますので、そちらも要チェックです。
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