母親になって後悔してる
子どもへの「愛」と母であることへの「後悔」は共存する
今日ご紹介するのは、TV番組でも紹介されていた”母親になって後悔してる(オルナ・ドーナト著/鹿田昌美 訳)”です。
母になり、子どもを授かった女性たち。彼女たちの中には、母となることを最初から望まなかった人、もしくは母となってから強烈な後悔に駆られた人がいる。
そんな女性たちの言葉を正直に見せてくれる本書は、世界中で賛否両論を呼びました。
母として、子どもを愛さないことはあってはならないはずだ、という社会通念がある中で、それでも心に秘めた想いが確かに存在している。
そんな女性たちの声に耳を傾けてみてください。
こんな人におすすめ
- 母親であることに対しての違和感を感じている人
- 母親となる女性側の気持ちについて考えてみたい人
概要
文章の構成
300ページを超えるボリュームの本書。
実際のインタビューで母親となって後悔している女性たちの声をまとめ、それぞれ何人の子どもがいるかといった最低限の情報と共に掲載してくれています。
ざっくりとまとめると、
- 子どもを持った後の後悔は世間から許されないとされることが多く、葛藤を抱えてきた。
- 自らの子どもに対して、深い愛情と育てる重荷を同時に感じている。
というのが女性たちの気持ちです。
これらについて、著者である社会学者のオルナ・ドーナトさんが分析していく構成です。
彼女らの言葉から共通点を見出し、社会の中にある圧力、悩みを生じさせる背景を紐解いていきます。
自由な選択の結果?
現代においては、恋愛をし、結婚をして、子どもを持つかどうかは選択ができると考えるかもしれません。しかし、私たちの自由は
P36 社会が女性たちに望む選択だけ
だと考えたことはありますか?
私たちが「幸福な人生」の道筋を描くとき、働くこと、素敵なパートナーと出会うこと、結ばれ子を育むこと、家庭を広げていくこと、家を持つこと…といった姿を思い浮かべます。当たり前で、普通で、流れに身を任せていれば子どもを持つことは女性にとって当然のこと。
だって子どもを産む能力は有限なのだから。
女性たちの中には、不妊治療までして子どもを授かった人のインタビューも登場します。
ところが、子どもを持ってみて初めて・あるいはその前から、自分が母親となることに違和感を感じる人もいます。
パートナーや周囲の母親たちが押し付ける「当たり前」に屈し、母となるしかなかった人。母という存在になることがどういうことか、知識のないまま母となってしまった人。
良き母とはなんであるかを彼女たちは理解しています。そして確かに子どもたちに「愛情」を注ぐ。しかしそれは望んだことではなかった。一度子どもを持てば、もう後戻りはできない。彼女たちは自分自身の人生を諦めたのだと語ります。
子どもを持つメリット
子どもを持つことのメリットをすでに母親として存在している人に問うとき、
- 子どもが老後の親の世話をしてくれるから
- 世代の継承に貢献できるから
という理由付けがなされることがあります。
本書に登場する女性たちは、この答えに拒否反応を示します。
また、「子どもが母親を一人前にする」という側面もあるようです。
インタビューに登場する女性たちの大半は、子どもを大切に育てようとしています。決して、おろそかにせずに、子供の将来を考えて生きている。
その中で、彼女たちは「善人」になっていくのだと言います。
- 母として善人であらねばならない
- 手本として行動や振る舞いを正す必要がある
これらを眺めてみたとき、子どもは何のために持つのかという疑問が生まれます。子どもが好きだ・愛の結晶として残したいという想いがあるなら持つべき?そんな気持ちがなくても持つべき?
インタビューに登場する女性たちの中には、自分自身の本当の気持ちを隠して愛情を注ぎ続ける人がいる一方、母親であることへの拒否反応からセラピーのお世話にならざるを得ない人もいました。彼女たちは幸せであると言えるでしょうか?
条件が良ければ母親であることを喜べたか?
母親であることを後悔する背景に、貧困・周囲の協力が得られないことなども挙げられると思います。確かに、お金があれば・夫がもっと手伝ってくれれば、改善されたことはあると女性たちも吐露している。
しかし、
母親になってしまえば、もう親としての責任が生まれる。その責任から逃れることは一生できないと語られています。
相手が望むように、あるいは最初に産んだ子どもが望むように、2人目・3人目と子どもをもうけた女性もいました。
気持ちはまったく反対のことを考えているにも関わらず、です。
望まないのならば子どもを持たなければいい
と言うのは簡単ですが、女性たちを取り巻く状況や感情は非常に複雑であることを念頭に置かねばなりません。誰しもが幸せになりたいと考えているし、その形をどう表現するかは多様化する一方、女性が持つ「子どもを産む」という役割はなくならないのです。
女性たちが抱えてきた、今まで発言することが許されなかった気持ちはまだまだあります。ぜひどんな性別の人にも読んで思考を巡らせてほしいと思います。あなたは母という存在についてどう考えますか?
感想
なかなかに重いテーマだったのですが、非常に興味深く読みました。執筆している著者とインタビューに登場する女性たちはイスラエルの人・ユダヤ系の人たちです。ユダヤ系の人たちが持つルーツや世界とのつながりについて様々な本を読みましたが、なんだか時代を動かす存在のような気がして…ついつい手に取ってしまいます。
この本に登場する女性たちは、相手が求めるまま・誰かが必要としてくれるままに行動し、後悔することになっているような気もしました。誰かに必要とされたいと願うのは社会性を持つ人間の本能でもあると思うし、病気と紙一重でもある欲求であると思います。
本能と、自分の人生を生きたいと思う理性の狭間。
その言語化がこの本だと思いました。
女性が母となることを選択肢の1つとして捉えても良いのだと思いたいですが、それを世の中が受け入れたとき、世界の人口や社会の在り方はどう変化するのか?ということにも考えが巡りました。
まとめ
- 母親であることを重荷に感じる女性たちがいる
- 気軽には言葉にできない感情をあらわにしてくれる1冊
女性たちが抱える感情の複雑さ、社会が求めている女性像、そしてこれからの社会の在り方について、考える一助となる一冊です。
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