Winny 天才プログラマー金子勇との7年半

嘘のような本当の弁護士の闘い

久々の投稿となります。今日ご紹介するのは、”Winny 天才プログラマー金子勇との7年半(壇俊光 著/インプレス NextPublishing)”という本です。

1人のプログラマーが冤罪にかけられ、その無実を証明するために奔走した弁護士の実話。現実はよっぽど小説より奇なりだと感じさせられる1冊で、ドラマティックな仕上がりになっています。


こんな人におすすめ

  • プログラミング技術に興味のある人
  • 小説風の実話がお好きな人
  • 弁護士知識のある人


概要          

あらすじ           

金子勇。栃木県に生まれた彼は、小学生の頃に出会ったマイコンに衝撃を受け、プログラムの世界へと没頭していく。そして電子掲示板「2ちゃんねる」にWinnyというプログラムの開発を宣言し、当時の最先端として時の人となる。それが彼の、逮捕のきっかけとなるとは思いもよらなかった…


この物語は、プログラマー・金子勇さんという人物を弁護することになった壇俊光さんの目線から展開されていきます。

弁護士としての仕事のこと、プログラマーという仕事のことも垣間見ることができますし、弁護士の立場から見る検察・裁判所の姿や、双方の思惑なども知ることができるので、ある意味貴重な資料ともいえる作品です。


  • いかに金子勇が「プログラム馬鹿」であったのか
  • 世の中に良いものを生み出したいという純粋な気持ちを持っていただけ

ということを表すため、金子さんの面白エピソードが随所にちりばめられたコメディ感もある語り口は、クスっと笑わせてくれたり、時にほろっと感動させてくれたりします。


そんな彼がなぜか逮捕されてしまい、「著作権侵害を幇助する」という罪で法廷で裁かれることとなるのですが、その背景にはいったい何が…?注目です。



弁護士の仕事         

壇さんの弁護士としての闘いを細かに説明してくれているため、法の専門用語が満載です。そのためやや理解しにくいと感じる人もいらっしゃるかもしれません。

また、プログラマーの弁護ということで、界隈の知識を知らずして闘うことはできません。プログラミングに関するワードも満載ですから、なじみのない人にとっては読み進めるのが大変かもしれませんね。

注釈や参考として補足をしてくれてはいますが、よくわからないところはスルーしても良いでしょう。それでも十分に楽しめる物語になっていると思います。


P50 「私は、自分の人生のうち5年を貴方のために使う。」

この言葉、なかなかのインパクトがあります。

裁判所が判決を出すまでには何年もかかる、という事実は何となく知っていましたが、それはつまり裁判が長引くほど、弁護する側も、される側も時間を消費するということなのだと、気づかされました。

ましてや、それが冤罪だったとき、普通の人には計り知れないものが失われたことになる。

若さも、技術革新も、出会うはずだったものとの出会いも。


P157 この事件は私の事件である。

弁護士という仕事の重さ、覚悟を知る1冊となることでしょう。



「正義」の持つ物悲しさ    

警察や検察は、社会を守る役割を担い、悪を正すことも仕事の一つです。

しかしこの物語の中の彼らは、いかにも正義の中に巣食う悪役・悪代官そのものになっています。もちろん、立場が違えば全く違った見え方になるでしょうが、少なくとも、大した下調べもしないまま、何とかして犯人をでっち上げなければならなかった正義の使者を、尊敬することはできません。


P170 人の人生の最良の時間を奪ったことに対して、警察や検察から謝罪の一言は何も無かった。

こんな風に書かれると、もしかしたら警察へのイメージが悪くなってしまう人もいるかもしれませんね。

どのタイミングで誰が冤罪を作ってしまったのか、もはや誰にもわからない。誰の責任なのかも説明できない。誰かを助けているはずが、誰かを傷つけているのかもしれない。そんな物悲しさがここにはあります。


金子勇を無罪にする。そのために闘った弁護士は、警察・検察・裁判所との闘いでいったいどんな結末を迎えたか?ぜひ読んでみてください。



感想          

専門用語がとにかく多く登場するので、その部分についてはさっぱりわかりませんでした。

それでも語りが軽やかで、一気に読み進めることができる魅力ある物語です。しかもこれは実話。もちろんいくらか脚色はあるかもしれませんが、登場人物たちが実際に存在していた人なのだと思うと、なんだかワクワクします。


7年半という月日を費やして裁判に挑んだ人間たち。

得たものと失ったものを比べると、もしかしたら失ったもののほうが多かったのかもしれない。そんな悲しさが読後にはあります。それすらもなんだか味がある。

歴史を変革させるような技術を生み出した人間がいて、もっと輝くはずだったその存在が誰かの何かに足を取られて立ち上がれなくなることがある。それでも、確かに遺したものがあるのだと思うと、人間の歴史があらゆるものが繋がって作られているのだと感じられて、少し嬉しくなるのです。


P174 人は死ぬ。しかし、プログラムを死なない。



まとめ         

  • 天才プログラマーととある弁護士が挑む裁判の物語
  • ドラマティックな展開ありの実話
  • 混沌とした世界が司法にもある

ハッピーエンドかバッドエンドか。ぜひ注目してください。

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