木曜日にはココアを

それぞれの人生は繋がっていると感じさせる1冊

久々のブログ投稿となります!

今日ご紹介するのは、以前紹介した青山美智子さんのデビュー作である”木曜日にはココアを(青山美智子著/宝島社)”です。

青山さんは以前紹介した「赤と青のエスキース」の著者でもあります。

以前のブログ記事はこちら↓

https://www.otonadokusho.com/2022/08/2022.html


軸となる物語と、それに関わる別角度からの物語が絡み合い、最後には幸せが待っている。

ショートストーリーが絶妙に絡まっていく秀逸さを楽しんでほしい作品です。


あらすじ        

概要             

川沿いの桜並木のそばに佇む喫茶店「マーブル・カフェ」。物語はこの喫茶店から始まり、12個のストーリーが繋がっていきます。

東京とシドニーをつなぐ作品なのですが、著者の青山さん自身の経歴ともリンクしていますね。もともと大学卒業後にオーストラリアのシドニーへ渡ったという青山さん。日経新聞社で記者として2年間働いたのちに日本に帰国されています。きっとそのときの人との出会いが物語に影響を与えているのでしょう。


12個のストーリーのタイトルを載せます。

1:木曜日にはココアを

2:きまじめな卵焼き

3:のびゆくわれら

4:聖者の直進

5:めぐりあい

6:半世紀ロマンス

7:カウントダウン

8:ラルフさんの一番良き日

9:帰ってきた魔女

10:あなたに出会わなければ

11:トリコロールの約束

12:恋文



前半部分のおおまかなあらすじ 

※後半はかなりネタバレが強くなるので、今回はちょうど半分の6作品目までを取り上げていきます。


1:木曜日にはココアを

マーブル・カフェ。そこは僕がマスター引き継ぐことになった大事な場所。今日も僕はここでカフェを営む。そして木曜日は僕の好きな人・ココアさんが来る日なのだ…


こちらでまず人々を繋ぐきっかけとなる喫茶店「マーブル・カフェ」が登場します。

個人的には、「マーブル」という名前が何とも上手だなと思います。人と人とが出会い混ざり合っていく場所を表現しているような。そんなネーミングではないでしょうか。



2:きまじめな卵焼き

マーブル・カフェから慌てて飛び出した朝美。今日は保育園に息子の拓海を迎えに行かなくてはならない。だって今日は夫が不在だからだ…


カフェから繋がって別の一人の女性にスポットライトが当たります。

キャリアウーマンでバリバリ仕事をする朝美が、今日は夫に代わって息子の世話をするというミッションを担っています。さて、彼女はうまく家のことができるのか?見守っていきましょう。



3:のびゆくわれら

幼稚園で働くえな先生。園児の萌香ちゃんが、ネイルをした爪を褒めてくれた。本当はネイルなんてしちゃいけないんだけど…


場面は変わって幼稚園。ここでは子どもたちのために働く女性の心の葛藤が描かれます。頑張って働いているつもり。だけど、やりがいって何だろう?



4:聖者の直進

幼稚園で働く泰子。親友の理沙がついに結婚することになったとマーブル・カフェで告げてきた。でも、夫になる相手にちょっと不安があった…


唯一無二の存在が大切な人を別に見つけた。

頭ではわかっていても、なんだか素直になれない泰子。本当にたくさんの時間を共有して、分かち合ってきた親友だけど、愛情と妬みのような気持ちを持ち合わせている。愛と憎しみが似たような感情だと表現されるように、ここにも小さな葛藤がありました。



5:めぐりあい

シドニーでの新婚旅行。愛する人とやっとこの日までこぎつけた理沙。シドニーでは結婚して50年になるという老夫婦に出会うのだった…


幸せで在ろうと努力し、長く連れ添うと生まれてくる雰囲気ってありますよね。これから結婚生活を始めようとする人へのエールのような作品です。



6:半世紀ロマンス

美佐子と言います。夫である進一郎さんと連れ添って50年。今はシドニー暮らし。進一郎さんとの出会いは、そう、私がまだ別の人とお付き合いをしている時でした…


おばあさんになった美佐子さんが語る、恋と、結婚と、そして今のお話。

とてもおっとりしていてお似合いの夫婦。こんな風に想いあっていけたらいい、と思わせてくれました。


7話目以降からは、いよいよマーブル・カフェとシドニーを繋いでいたのが誰なのか、そしてそこから何が生まれたかがわかってきます。



素敵な言葉集      

心に響く印象深い言葉たちを少しですがご紹介していきたいと思います。


P38 なんで、なんで。なんで卵焼きくらい満足に作れないのだろう。

こちら、どこが素敵??となってしまうかもしれないのですが、すごく共感できてしまいました。

朝美はキャリアウーマンで、仕事ならちゃんとできて、子どものころから優秀だと言われてきた。なのに、誰でもできるようなことができない。嫌いなことに向き合えていない、と感じているキャラクターなのです。


私自身、「なんでこんな簡単なことができないんだろう」と落ち込んだことがあって、自暴自棄になっていた時期があります。その時の記憶と非常にリンクしましたね。彼女の後ろめたさに共感し、救われてほしいと願う人はきっと多いと思います。



P102 赤い糸。それは、小指と小指をつなぐたよりない一本の事ではなく、互いの体中をかけめぐる血のことなんじゃないだろうか。

運命の相手について考えた理沙の言葉です。あらかじめ結ばれているわけではなく、色々な出来事が重なることでそれぞれの体の中を流れる赤い糸が共鳴する…ロマンチックでもあり、非常にリアリスティックな側面も感じさせる名言だと思いました。空想なんかよりももっと強く心臓が鳴るような。そんな言葉ではないでしょうか。



P179 でも考えてみたら、多かれ少なかれ、誰もが誰かにとってそういう存在なのかもしれない。きっと知らずのうちに、わたしたちはどこかの人生に組み込まれている。

いきなりネタバレか、というようなセリフなのですが、文庫本の表紙にもあるように、

わたしたちは、知らないうちに誰かを救っているー

これがこの本のメッセージの1つであるでしょうし、キーとなるもの。

私たちは自分自身の手で何事もつかみとらねばならないと考える傾向にありますが、行動一つ、言葉一つがいかに関わり合い、共鳴し合っているのかを知れば、自分自身の後の行動はおのずと善き方向へと変化してくるはずです。



感想          

人生の応援歌のようなこの作品。

取るに足らないような存在の積み重ねなのかもしれないけれど、私たちは今確かにここにいて、生きている。それをどう使うかはそれぞれに委ねられていることですが、どこかで誰かに繋がっているという事実は、きっと励ましになると思います。

短いストーリーが綿密に関わり合う様は、青山さんの作品の特徴ですね。最後は心温まる結末へと辿り着きますので、楽しく読み進めてみてください。


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